かつて職人を志した男がつくる、シンプルなトートバッグに込めた想い
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冬は雪深く、一年を通して湿潤な地域が広がる北陸。その独自の風土が、さまざまな工芸技術を育んできました。
そんな北陸の地で2020年1月誕生したのが、ものづくりの総合ブランド「RIN&CO.」(リンアンドコー)。
漆器や和紙、木工、焼き物、繊維など、さまざまな技術を生かしたプロダクトが動き出しています。




今回は「RIN&CO.」を立ち上げた漆琳堂の内田徹さんとともに、プロダクトの製作現場を訪れ、北陸のものづくりの魅力に迫っていきます。
*ブランドデビューの経緯を伺った記事はこちら:「漆器の老舗がはじめた北陸のものづくりブランド「RIN&CO.」が生まれるまで」
一言でいうと、「しっくりくる」バッグ
今回ご紹介するのは、シンプルなトートバッグ。「RIN&CO.」初の布製品です。

深いネイビーのバッグは、使う人を選ばない落ち着いた佇まいです。
マチもしっかりあるので、ノートパソコンや雑誌、一泊程度の旅行にも使えそうです。

また、肩にかけても手持ちをしても、ちょうどいい長さの持ち手もうれしいポイント。
腕や肩に食い込まない絶妙な幅なので、たくさんの荷物もしっかり支える頼りになるバッグです。

装いや風合い、使いやすさなど、一言でいうと「しっくりくる」。そんなバッグが北陸のとある会社で誕生しました。
異業種から業界トップクラスの会社へ
RIN&CO.のものづくりの舞台である北陸は、木工や漆器、和紙だけでなく、実は繊維産業も盛んです。
福井県鯖江市にある株式会社エーリンクサービスは、繊維のなかでも販促用バッグやエコバッグ、オーダーメイドバッグの企画・製造を手がける会社。
設立は2009年とまだ歴史は浅いですが、なんと販促用バッグの国内販売シェアはトップクラスを誇ります。

地元に目を向ける余裕が生まれた
「RIN&CO.」のオリジナルバッグが誕生したきっかけは、2018年に福井県鯖江市で開催された体感型マーケット「RENEW」にエーリンクサービスが参加したことでした。
代表の山本禎久(やまもと・よしひさ)さんいわく、それまでは地元となかなか関わりを持つ余裕がなかったそう。

全くの異業種から、たった一人で会社を立ち上げた山本さん。
「インターネットから好きなデザインのバッグを注文し、印刷加工されたものが届く」というネット受注のスタイルが時代のニーズにフィットし、なんと、この10年で7回も社屋を引越しするほど、瞬く間に規模を拡大していきました。

「会社を立ち上げてからこれまで、外に向けた活動は一切してこなかったんです。ネットでの受注がメインなので、地元で会社のことをアピールする必要性を感じていませんでしたし、余裕もありませんでした。
しかし、会社も軌道に乗ってきたことで、当社のことをより多くの方に知っていただきたいと思うようになりました。私も働いているスタッフもきっと大きな刺激を受けるはず、と『RENEW』への参加を決めたんです」

「RIN&CO.」を立ち上げた漆琳堂の内田徹さんと出会ったのも同じ頃。
「同じ鯖江市内にもかかわらず、こんな会社があるなんて知りませんでした。鯖江には越前漆器やメガネ、繊維など、さまざまな産業がありますがOEMでつくるところがほとんど。すごい技術をもっているのに名前が知られていない会社が多く、エーリンクサービスさんの技術でバッグをつくりたいなと思ったんです」
と、内田さんも当時を振り返ります。

打ち合わせを重ね、素材や大きさ、持ち手の長さなど何度も検討しながらできたトートバッグ。
約1年半の歳月を経てようやく完成しました。
朝注文を受け、その日のうちに発送
内田さんも「すごい」と驚くエーリンクサービスのものづくり。国内トップクラスの販売シェアに押し上げた理由の一つが、柔軟な生産体制です。
「2014年から印刷部門を社内に新設したことがターニングポイントになりました。
販促用バッグは“おまけ”のようなものなので、前もって準備をされる方は少数派です。期日のギリギリになって注文される方がほとんどなので、より短納期や小ロットのご要望にも応えられる体制を整えました」

シルクスクリーンや熱転写印刷、昇華転写印刷など加工の種類を増やし、今では朝注文を受けるとその日のうちに出荷できるそう。




こうした即日即納できる体制によって、業界内でも一歩先行く存在となったエーリンクサービス。今や「販促用バッグのことならエーリンクサービスに相談すれば大丈夫」と、駆け込み寺のような存在にもなっています。
ものづくりへの秘めた思い
内田さんの依頼で「RIN&CO.」のオリジナルバッグの制作を手がけることになった山本さん。実は、依頼を引き受けた理由がもうひとつありました。

「実は私、20代の頃は転職三昧でいろんな仕事に就いていたんですが、最初に就職したのが漆器関係の仕事だったんです。職人になりたいと思っていた時期もありましたし、今でもものづくりには憧れ続けています。
販促用バッグと工芸品は対局のところにあるかもしれませんが、つくるからにはお客様に喜んでいただきたいという、ものづくりへの想いは同じだと思っています。
より品質の高いものにこだわりたい。しかし、“販促用”としてつくり続けるには限界を感じることもありました。
そこで、丈夫で長く使ってもらえるバッグもつくろうと、現在、フルオーダーメイドバッグをすべて国内で生産できる仕組みづくりも進めています」

これまでさまざまなバッグを手がけてきたエーリンクサービス。そのノウハウが詰まったトートバッグは、無駄なものが一切ないシンプルなデザインで、使えば使うほど技術の高さを感じるはずです。

ここから北陸の、日本のバッグの新しいスタンダードが生まれるかもしれません。
<取材協力>
株式会社エーリンクサービス
福井県鯖江市吉谷町16-52-1
文:石原藍
写真:荻野勤、中川政七商店
