冬の食卓をもっとおいしくする道具。プロに教わる選び方、使い方
今年は暖冬、と言われても冬はやはり寒い。今週から小寒に入り、いよいよ寒さが本格化してきそうです。
そんなときにほっとできるのが、家でぬくぬくしながら食べるごはん。
これまでの「さんち」記事から、いつものお家ごはんが何倍も楽しくなる道具たちを紹介します。
< 土鍋 >
土鍋に「伊賀焼」がおすすめな理由
寒い日にはやっぱり、熱々の鍋料理が恋しくなります。調理が楽なこともあって、「今日は鍋にしようか」と2日に1度は言っているような。
鍋料理には保温性の高い土鍋がおすすめです。中でも「伊賀焼」には、土鍋に適した特徴があるそうです。

伊賀焼は、その耐熱性と蓄熱できる性質から、調理器具として優秀な働きをします。
秘密は伊賀の土。伊賀市はかつて琵琶湖の底だったとされ、古琵琶湖層と言われる地層から採れる伊賀の土の中には、400万年も前に生息していた有機物が多く存在しています。
この土を高温で焼くと有機物が発泡し、土の中が気孔だらけの状態に。その状態の土は熱をすぐに通さず、一度蓄熱をします。そのため食材への熱の伝わり方がよく、調理に適しているのだそう。

日本で取れる陶土の中で土鍋にできるほどの耐火度を持つのは伊賀の土のみと言われています。

日本で唯一、天然素材の陶土からできる伊賀の土鍋
伊賀の老舗のメーカー長谷園さんでは様々な土鍋が開発されてます。
プロの料理家の愛用者も多いという長谷園さんの土鍋。

これまで75万個を販売し、家電雑誌でも“一番おいしくご飯が炊ける道具”として評価された、炊飯土鍋の“かまどさん”をはじめ、蒸し器にもなる土鍋、煙を出さずに自家製燻製ができる“いぶしぎん”、IHでも使える土鍋など、様々な商品を開発されています。

作る現場を案内していただいて驚いたことは、すべての土鍋作りに人の手が入っていること。毎日大量の数を作られている長谷園さんですが、成形した土鍋を削ったり、取っ手を付けたりする工程は人によって行われているそうです。
乾燥の具合、微妙なサイズ感の違いなど、ひとつひとつを人の目で判断しながら手作業で作られていることを知ると、苦労して作られた土鍋に感謝したくなります。

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わたしの一皿 土鍋のある景色
< 杓子 >
鍋料理に役立つ「具材を逃さない」杓子
ここで、あると便利なお供も併せてご紹介。煮物や鍋料理に活躍すること間違いなし、「有道杓子(うとうしゃくし)」という道具です。

コロンとした形、木のあたたかみ。そしてすくいの部分の表面が、波打つようでとても美しい、と思いました。調べると、かの白洲正子も絶賛した道具だとか。

“杓子”という名の通り、食材や汁物をよそう道具なのですが、使ってすぐに「具材を逃さない」ことに驚きます。
いちばんその感覚がわかったのが、しらたき。普段なら菜箸でとり分けるところを、他の具材と一緒に杓子ですくい上げられました。
すくい部分に触れてみると、内側のくぼみをぐるりと囲むように鉋 (かんな) で縁取りされています。
このわずかな縁取りとすくいの凹凸が程よいストッパーになって、余分な汁は逃しながら具材だけキャッチするのに一役買っているようです。


作り手の奥井さんから教わったお手入れのポイントは以下の3つ。
・洗い:洗剤なしでOK。汚れが気になる時は、たわしで落とすのがおすすめ
・乾燥:直射日光のあたらない、風通しのいいところで乾かす
・保管:密閉したところにはしまわないこと。通気性のないところにしまうと、カビの原因に!

「有道杓子は全体に鉋をかけて表面をなめらかに仕上げるんです。
鉋が繊維のささくれを平らげるので、水や汚れが繊維の中に入りにくくなるんですよ」と奥井さん。
何度か使った後も、今のところにおいや色移りはありません。使い終わったらすぐ洗う、を気をつけていれば、長く良い状態で使えそうです。
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“ご飯を炊く土鍋”の選び方

ところで土鍋と言うと鍋料理を思い浮かべますが、土鍋の力を一番感じられるのは“ご飯”かもしれません。土鍋で炊いたご飯は香り、甘み、弾力がやはり格別です。
様々な土鍋から選ぶポイントとして間違いないのは、「炊飯用土鍋」から選ぶこと。
炊飯用の多くは、ご飯を美味しく炊けるように厚みや深さ、蓋の作りが考えられています。
特に「吹きこぼれしにくい」と謳っていたり、その評価のある土鍋を選ぶと、ストレスなく使い続けられそうです。
また、サイズは必要最低限を選ぶ方がいいと思います。
何合炊くかでサイズを決めますが、炊飯用土鍋は一般的な土鍋に比べて厚みがあり重い傾向があるため、特に初めての場合は使うのが億劫にならないようにするためです。

編集部のおすすめする土鍋は、「大谷製陶所」の大谷哲也さん作。その名もライスクッカーというご飯を炊くための土鍋です。
ライスクッカーは、磁器土に白釉を施した滑らかな手触りと、全体的に丸みのある曲線が特徴的。
そして落として割らない限り一生使えそうな頼もしさ。この素材・厚み・形のバランスが、お米を美味しいご飯に変化させるように思います。
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< セイロ >
蒸し野菜に最適な、電子レンジでも使える「わっぱセイロ」
さて、1月はちょっと身体が重い‥‥と感じる方も少なくないのでは。そのまま油断していると、体重計に乗ってびっくり!となるので、胃を休める食事も心がけたいところです。
そこでおすすめなのは、デトックス効果もある温かい野菜料理。蒸し野菜を作るのに最適な「わっぱセイロ」をご紹介します。

写真は「足立茂久商店」さんのセイロ。現在11代目の足立照久さんが、ひとつひとつ手作りでセイロを作り続けています。
このセイロを使って作る蒸し野菜は、作り方というほどもなく、数種類の野菜をやや大振りに切ってセイロに入れ、湯気のあがった鍋に乗せて10分前後蒸すだけ。
れんこん、人参、お芋、ごぼう、たまねぎなどの根菜や、ブロッコリーやキノコ、そしてトマトも1分ほどさっと蒸すと彩りも綺麗です。
シンプルで美しいデザイン、丈夫で長持ち。さらに金具を使わず厳選した柾目の檜と竹くぎの天然素材で作られており、なんと電子レンジでも使える画期的な代物。料理好きの間でもファンが多いセイロです。
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日本酒と相性のいい酒器の選び方
最後に、食だけでなくお酒も楽しみたい!という方へ。
加賀にある日本酒専門のバーのマスター、利酒師「酒匠」の上級資格を持つ下木雄介さんに伺いました。

まず教わったのは、酒器において大切な要素は「底」と「天面」。
酒器にはガラス、漆器、陶器、錫などさまざまな素材がありますが、「大事なのは素材よりも形状」とのこと。
天面とは飲み口の2~10ミリの部分で、唇に当たる部分。底はその名の通り、内側の底部分です。
「天面の形状で人間が日本酒をどう感じるかが変わり、底の形状で日本酒自体の味が変わります」

日本酒の「香り」おいて大事な要素は、口に含んで広がる「含み香」(口内香とも言います)。
天面が外に向いていたら含み香が広がり、内側にすぼまっていたら含み香が柔らかくなります。

また、底の形状は、大きく分けると「鋭角」「小さな曲線」「大きな曲線」「下ぶくれ」に分けられます。
鋭角は日本酒の香りを高め、小さな曲線は味をすっきりさせます。大きな曲線は熟成感を際立たせ、下ぶくれは旨味を強調するのだそう。

酒器のかたちがこんなにも奥深いとは。お家にある酒器で飲み比べてみるのも楽しそうです。
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いかがでしたか?寒い日こそ家でゆっくり楽しみたいごはん。ぜひ参考にしてみてくださいね。